立体展足のススメ

私の標本コレクションは、一般的な標本の展足と少し違っています。一般的な標本の場合、亜種や個体差がわかりやすいように

ボディーを平らにして脚を左右対称にそろえたポーズで展足するのが普通です。その中でも、それぞれ好みによって癖やこだわ

りがあり、ツメの角度が違ったり、触角とツメの重ね方やアゴの開き具合などに差があります。 下の写真が普通の展足です。 

 

私がまだ20代の頃、アメリカの自然史博物館で昆虫の標本を見てとても驚きました。それは、今までに見たことがないような姿で

展足された甲虫たちが、美しく展示されていたからです。                                       

それらは生きているときのポーズを再現するような展足の仕方で、その博物館内の哺乳類や魚類などの剥製も同様に自然な姿

で展示されていました。下はそのときに買ったポストカードです。                                    

私は甲虫の標本を、作品のモチーフとして資料にしています。主に形状を研究するために必要なのですが、作品を生き生きとさ

せるには、自然な姿であることがとても重要となります。そのために多くの種類を飼育した経験がありますが、標本の場合もこれと

同じで、生きているときの姿を再現することにしたのです。一番重要なのが体幹の角度で、これによって生命感をもつような表現を

することができます。 上のポストカードでは開きがオーバーすぎて、今では不自然に思っています。               

 

生き虫ブーム最盛期には、このような展足がライブ標本として雑誌に紹介されているのを見たことがあります。私もこれと同じく、

生きているときの姿を再現しているのですが、ライブ標本の目的はジオラマのようにして楽しむことのようで、場所をとることや紫外線

からの保護という観点からも、あまり定着しなかったようです。                                       

 

このように生きているような自然なポーズで展足をすると、不思議と針や針穴が気になってくるものです。

 

しかし、針を刺さずに展足するのはなかなか難しいものです。甲虫の体は丸くツルツル滑るので、何本もの針を組み合わせて体

の凹凸を利用して固定します。このゴミダマはまるで菌類が生えたように針だらけです。 展足に慣れるまでは、針の向きもバラバ

ラで時間もかかるのですが、慣れてくると針が放射状になり、展足中の姿も美しく感じるくらいで、時間もかからなくなります。 

 

このミヤマクワガタも同じように展足しました。箱への固定は、短く切った4本の虫ピンでおこないます。うまく展足できていれば、

このように脚二箇所だけで標本を固定することができます。                                      

 

乾燥中のルニフェルミヤマと北海道ミヤマです。展足して翌日にチェックすると、新鮮な眼で細かな点の修正ができます。

 

ジンガサハムシ・ブローチハムシのコレクション。台紙には、紫外線による変色がしにくいポリ板を使っていますが、何十年もすれ

ば紙と同様、黄変するでしょう。                                                       

 

手書きしたラベルです。ファーブル先生のような美しい字が理想ですが、それが無理でも手書きは味が出ると思います。

 

 

「立体展足のススメ」として紹介しましたが、じつはあまりお勧めできません・・。私の場合は必要性があってこのように展足

していますが、手間がかかる、場所をとるといった面もあるからです。                                 

 立体標本は作品制作のモチーフとして使うので、モチーフ標本などと呼んでいます。甲虫はちょっとした角度や部位のバラン

スでカタチが違って見えるので、まるで彫刻のようです。                                        

 小さくて完全な「彫刻」ともいえる愛すべき甲虫たち。ココロを喜ばせてくれるこの存在に感謝します。              

 

 

TOP